第10回 ビジョンづくりとファシリテーション事務局

 ところが、そういったやり方だと、ビジョンに対して当事者意識が持てず、結果として実効性のあるビジョンになりにくくなります。「参画なければ決意なし」という言葉があるように、ビジョンの策定プロセスに参加してこそ、ビジョンにコミットできます。とはいえ、個人が勝手気ままに言いたい放題では、組織のビジョンになりません。そこで、ファシリテーションの出番となるわけです。  中でも、NPOをはじめとするボランタリー(自発的)な組織では、メンバーを束ねるのは、ミッションやビジョンしかありません。同床異夢では組織として機能せず、メンバーの参画意欲を高めるためにも、ビジョンづくりは大変重要な作業となるのです。 ●個人の思いをみんなの思いに  ビジョンづくりは、メンバーが共通の知識を持つことから始まります。組織は常に環境の中で生きており、単に思いだけでは組織として存続できません。組織が置かれている状況や、外部の環境変化など、メンバーが同じ知識を持たないと、ビジョンが単なる思いつきや夢物語で終ってしまいます。  次のステップとしては、個人の本当の思いを引き出していきます。組織のビジョンは必ず個人のビジョンにつながっています。ところが、案外人は自分のビジョンを意識していません。意識の底にある思いに気づかせる、ダイアログのコミュニケーションのスキルが求められます。  それが終れば、最後のステップとして、個人の思いをぶつけあって、みんなの思いへと昇華させていきます。ここで、声が大きい人が勝ったり、妥協の産物では困ります。せっかくのビビッドな思いが、角がとれていくのも大変残念です。ここがまさに、ファシリテーターの腕の見せ所で、最大公約数を探しながらも、キラリと光る戦略性の高いビジョンにまとめあげていかなければなりません。構造化と対立解消のスキルが大切となります。 ●どのタイミングでビジョンをつくるのがよいのか?  ビジョンは、組織の基本方針の一つでもあり、組織結成時につくるものだと思っている人が大変多いようです。ところが、これは大間違いで、そんなことをしても、大喧嘩になるか、議論が盛り上がらず、リーダーのビジョンがそのまま組織のビジョンになるだけです。消化不良に終わり、いつか噴出すことは必至です。  組織は、組織として成熟するための社会化プロセスがあります。設立当初では、お互いが持つ価値観や意思が理解できず、組織としての文化がまだできあがっていません。そんな段階で議論しても、個人の思いが前に出すぎて、組織としての議論にならないのです。  ですので、組織結成時は、こういった話は棚上げに(リーダーのビジョンを仮置き)しておくことをお勧めします。入り口の議論に血道を上げるよりは、まずは何か実際に活動をしてみて、その中からお互いの文化や考え方の相違点を知るのが近道です。組織として何かやろうとすると、かならず基本方針の違いが露になり、自然とビジョンづくりの必要性に思いがいくようになるはずです。組織の社会化プロセスを眺めながら、そういったタイミングを見計らうのも、ファシリテーターの重要な役割となるのです。