そうではなく、メンバーの思いをすくいあげ、やる気を引き立たせ、メンバー同士の相乗効果を発揮するためにファシリテーションがあるはずです。すなわち「功利的な問題」に、「規範的な問題」や「感情的な問題」を加えて、実効性と納得性の高い合意形成をしようというのがファシリテーションです。
そう考えると、ペイオフマトリクスは功利的な判断をする一つの材料に過ぎず、それを超えてチームが本当に意思をもってやりとげ、それがメンバーの達成感につながる解決策を選び取らないといけません。そのためにファシリテーションがあるはずです。
●個人の視点から組織を見る
ビジネスシーンでは、「規範的な問題」や「感情的な問題」は表に出てきません。正確に言うなら、それを出すことが"善し"とされず、ひたすら「功利的な問題」として考えるように訓練されてきました。それは組織にとっては好都合ですが、個人から組織を見た時にはそうとも言えません。
人間は生き物ですから、「規範的な問題」や「感情的な問題」抜きには行動が成り立ちません。ポスト近代社会を迎えて、ますますこの二つの問題が働く人にとって重要になってきます。だからこそファシテーションがビジネスシーンでも脚光を浴びているのではないでしょうか。
そう考えた時に、コミュニティ活動の経験をつむことが、どれほどビジネス活動に役に立つかは、言うまでもないと思います。それどころか、コミュニティ活動の経験なしに、ファシリテーションは語れないのかもしれません。コミュニティ活動こそが普通の世界であり、これからのビジネス活動の姿を先取りしているともいえます。現在のビジネス活動は、その特殊な例と考えるのが自然なのです。
●書を捨て地域へ飛び出そう!
コミュニティ活動のファシリテーションを経験すれば、今まで見えてこなかった問題が、ビジネス活動でも案外大きいことが分かります。メンバー一人ひとりの思いにまで目配りをした、本当の意味でのファシリテーションができます。また、それが一つにまとまった時の醍醐味も味わえるようになります。
加えて、ビジネスシーンで過酷な状況だと思っていたものが、それほど深刻ではなことも分かります。「まあ、この程度の葛藤はよくある話だ・・・」と、余裕をもって対処できるようになります。きついフィードバックをもらっても、「しょせんビジネスの上のことだから」と冷静に受け止めることもできます。