第14回 ワークショップのテーマを掘り下げる事務局

  ですので、ファシリテーターの最初の仕事は、主催者側の頭の中にある問題意識を、正確につかむことから始まります。まさに相手の思いを引き出してつむぎあげる、ファシリテーションのテクニックが求められるのです。  例えば「若者はなぜ本を読まないのか?」というテーマでワークショップの依頼を受けたとします。ジ実はこのテーマの裏には二つの大きな前提が隠れています。それに気づかないようでは、ワークショップのデザインなんて到底できません。皆さん、お分かりになりますか? ●記述前提は隠れていないか?  一つは、「若者はなぜ本を読まないのか?」という話をするのですから、「若者は本を読まない」という事実がなければ議論する意味がありません。こういった事実に関する前提を「記述前提」といいます。まずここを確認しないと、この議論は始まりません。  若者といってもどれくらいの世代を指すのか、本といってもどんな種類の本を意味するのかで、「若者は本を読まない」というのが、事実かどうかが変わってきます。読書時間の絶対値が問題なのか、相対的に以前より減ったのが問題なのか、あるいは漸減傾向にあったのが加速度的に減ってきているのか、減り方によっても問題の捉え方が変わってきます。そこを把握しておかないと、何を論点にしたらよいのかが見えてこないのです。 ●価値前提は隠れていないか?   もう一つは、「若者はなぜ本を読まないのか?」というテーマの裏には、「若者はもっと本を読むべきだ」という考えがあるはずです。こういった価値観の前提を「価値前提」とよび、やはり事前に確認しておく必要があります。  例えば、「本を読むことの意義」「他のメディアとの違い」「若者という時期における読書の意味」など価値判断に必要な論点はたくさんあります。こういった点を事前にしっかりおさえておかないと、「何でこんな議論をするの?」という話になりかねません。  こういった話は、テーマを持ち込んだ人には当たり前すぎて、自分で気がつくことはほとんどありません。そういったものを引っ張り出して、本質的に何を議論したいのか、彼らに考えさせるのもファシリテーターの役割です。ワークショップのテーマをもらったら、記述前提と価値前提が隠れていないか、探すようにするのがその第一歩となるでしょう。