第16回 「仕切りテーター」にならないために事務局

 ファシリテーターは、「プロセスだけを舵とりしてコンテンツを操作しない」と教科書に書かれています。ところが、両者は分かちがたい面があり、実際にはプロセスを通じてコンテンツが操作できてしまいます。巧妙にやれば、クライアントやリーダーの意を受けて、落としどころにもっていくこともできます。そこまでやる人は少ないものの、まわりを見渡せば、案外仕切りテーターは少なくないではないかと思います。 ●仕切りテーターの二つのタイプ  仕切りテーターには、二つのタイプがあるように見受けられます。一つは、メンバーが話し合いの全体像がよくわからないうちに、「こういう枠組み・手順で議論しましょう!」と自分がやりたいプロセスを提示して、強引に引っ張っていってしまうタイプです。  一応、「他に良い方法が提案してくださいね」「これで進めてもよろしいですか?」とコンセンサスをえるようにするのですが、判断したくてもその材料がなく、結局そのまま通ってしまいます。プロセスへの納得感がえられないまま議論が進み、議論が終盤に差し掛かった頃になって、「やっぱり、このやり方は違うんじゃないかな?」とちゃぶ台をひっくりかえされたりします。  もう一つは、これとは正反対で、表面的には強引なところがなさそうに見えて、知らず知らずに自分も思う落とし所に引っ張っていくタイプです。メンバーの発言を「結局・・・ということをおっしゃりたいんですよね」と自分なりの解釈でまとめ、思う描く構図をどんどん展開していきます。ホワイトボードには美しく結論がまとまりますが、うまく乗せられた感じがして、やはりメンバーは達成感がえられません。 ●勇気をもってカミングアウトしよう!  こんな仕切りテーターにならないためには、「何のためのファシリテーションなのか?」という目的に立ち戻る必要があります。時間内に結論を美しくまとめるのが、ファシリテーションの目的ではありません。メンバー同士の相互作用を通じて話し合いの場を活性化し、チームに高い成果と満足感をもたらすためにファシリテーションがあるはずです。手段が目的化してしまうと、ファシリテーターの単なる自己満足になってしまいます。  加えて、おそらく多くの人は、チームに良かれと思ってやっているはずです。ところが、コミュニケーションの大原則にあるように、メッセージをどう受け止めるかを決めるのは、送り手ではなく受け手です。いくら善意に満ちた行為であっても、相手にそう感じてもらえなければ送り手の負けです。常にチームの状態(場の空気)を読み、メンバーに自分がどう見えているかを的確にとらえるアンテナが必要です。もちろん、終ったあとでのフィードバックを欠かせず、それを謙虚に見つめる心がなければなりません。  どうしても罠から抜け出せない人は、最初に自分が仕切りテーターであることをカミングアウトして、「強引さを感じたら指摘してくださいね」とお願いしておくという手もあります。こうしておけば、メンバーも臆することなく指摘ができますし、逆にファシリテーターへの信頼感も生まれてきます。「自分の弱点をさらけ出す」のは勇気がいりますが、こういうことが嫌味なくできるのも、優秀なファシリテーターの資質ではないかと思います。