第1回 ファシリテーションは、社会関係資本を増やす事務局

 資本といえば第一に「金融資本」、国や会社・団体・家庭、様々な組織を動かすための大元です。ここに情報や知的財産を含める考え方もあります。そして第二に、それら組織を構成する人々の「人的資本」。構成員の知識・技能・手法・所有する個々人のノウハウといった能力のことです。これに次ぐ第三の資本といわれているのがこの社会関係資本です。 ●社会関係資本ってなんのこと?   社会関係資本の考え方は、簡単に言えば「人と人のつながりを資本として捉える」ことと言えます。「人と人との関係性が、経済的またはそのほかの目に見えるメリットを生む【源泉】あるいは【資源】だ」という考え方です。  皆さんのお隣のご家族とのつながりをひとつの関係とすると、それを良好な関係にしている場合は資本の増加。会社のなかで上司とのコミュニケーションがうまく行っていると、資本の増加。相手との一対一の関係だけでなく、会議であったりクロスファンクショナルチームであったりNPOの運営であったり、はたまたウェブ上の仮想空間での、会ったこともない人との友達関係も、外国の方との人的交流もそうです。  開放的で良好で発展的で、たがいに刺激しあうような関係の場合は、資本の増加。この「資本の増加」が経済・社会・文化に明らかに好影響を与えていく、というのです。つまり、社会関係資本が増えると(拡大再生産されると)、他の金融資本や人的資本にいい影響を与え、経済活動や文化にいい刺激を与えます。  逆に、日本とどこかの国との関係のように、コミュニケーションがうまく取れなかったり価値観の相違が大きかったり交渉の仕方が悪かったりして、目標の共有化に失敗して関係が冷え込んでしまうと、資本の減少。コーラスの地域サークルで、メンバーの人たちと意見が合わずに喧嘩別れしてしまったら、計画されていた文化活動がストップして、資本の減少。老人ホームへの慰問などの地域貢献ができずじまいに終わってしまうと、いう結果を迎えます。  「人と人のつながり」を資本として考えた場合、それをどうやって増やして、増えた資本をどこにどうやって蓄積したり利用しているのか、については改めて考えてみることにし先に話の趣旨を述べることにします。 ●問題はそのつながり方  その、人と人との「つながり」の仕方によって資本が増えたり減ったりする。問題はそのつながり方ということになります。  みなさんも日頃経験されていることだと思いますが、仕事において、会社の同僚や上司との会議よりも、外部の人とのミーティングのほうが面白いし刺激がある。あるいは家族旅行の話し合いはうまくいかないけれど、社内旅行の企画会議は盛り上がる。自治会やマンション管理組合の会合はいつも揉め事だらけだけれど、環境保護のNPO活動はうまく回っている、などなど。これはいったいどういうことなのでしょう。  おなじ「人と人がつながりを持ってやっている活動」なのに、どうして違う雰囲気になってしまうのでしょうか。そのつながり方に違いがあるのでしょうか。それとも構成メンバーの人格や心理、あるいは技術上の問題があるのでしょうか。それをこれから考えていきたいと思います。 ●ファシリテーションは社会関係資本を増やすってどういう意味?  私はファシリテーションの理論家でも、社会学や経済学の専門家ではありません。それを前提に、これから非常におおざっぱな見取り図を申し上げます。話の趣旨と投げかけとしてはこんな構図を考えています。 1)社会関係資本を増加させる要因には、その組織やコミュニティ、社会のなかでの「信頼」「互酬性」「規範性」といったものがある。 2)特に、現在のように価値観や人と人とのつながり方が多様化し、不確実なことの多い社会では、たとえば、生活や仕事の中での「安心」「安全」「快適」とは異なる新しい価値観を、みんなで創っていかなければならなくなった。 3)それには、社会関係資本の考え方、つまり「信頼」「互酬性」「規範性」を意識していくこと、そして共感にもとづいた参加や参画や協働を進めることが、ひとつの方法として考えられる。 4)一方ファシリテーションは、ある面「信頼」「互酬性」「規範性」を醸成し、促進するお作法である。 5)それはいわば、自分たちでルールを作り成果を出していくプロセスであり、そのために、「自発」「相発」「創発」の場づくりをしていく。 6)そして一方、もともと金銭に換算できないような価値を交換していくときの、起爆・促進装置としてファシリテーションがある。となれば、ファシリテーションは社会資本増加の場であり、装置でもある。 少しかっこ良すぎましょうか。言葉に酔ってしまいそうですが、うまくいきますかどうか。