第6回 では応用問題へと・・・その壱事務局

●年金問題話し合いのための基本姿勢  前回例にだした年金制度の維持を目的として、世代ごとの利害関係者が話し合いをするとき、下記A〜Eのうち、みなさんだったら、当面どれをめざしますか。  A 制度が生み出す経済価値の大きさを評価基準にして、個人の協調行動を起こさせる  B 個人の利益・利得を制限する方策を話し合い、システムの維持という与えられた目的に  向かう  C 個々人に、自分には何ができるかを考えてもらい、そこからシステムを作り直すヒントを  考える  D システムに関係するメンバー全員の、他のメンバーや社会全体への役立ち感を喚起す  る  E その他( ) ウーム、年金問題は、社会関係資本による話し合い応用例のテーマとしては、まだまだ手ごわいかもしれませんね。いったい、だれとだれがステークホルダーなんだ? ●世界三大難関ファシリテーションを考える  さて、これから社会関係資本の構築とファシリテーションとの関係を考えていく前に、少しだけ別の寄り道をしましょう。 日本ファシリテーション協会の理事である加留部貴行さんは、「世界三大難関ファシリテーション」という大命題を掲げて、私たちに投げつけています。その三つとはなにか。 1 夫婦「合意形成」ファシリテーション 2 親子「関係構築」ファシリテーション 3 嫁姑「問題解決」ファシリテーション  いかがでしょう? もう、いきなり腹にこたえる衝撃的な難関ばかりですね。  まず、この場合の「ファシリテーション」とは、「この問題をどう話し合っていって解決していくか」という意味に捉えてみてください。加留部さんは、この三つの難関が話し合いでクリアできるものなら、ファシリテーションの世界どころではなく、ノーベル賞ものの業績だ、と言っているのです。ごもっともです。プロのファシリテーターでも、いやカウンセラーの方やコーチの方でも、この三つを敢然と遂行し、成果を上げている人はどのくらいいるのでしょうか。いたら手をあげてください。 ●結束型と接合型という、二つのつながり方   では、いままで整理してきたことをベースに、この剛速球を打ち返せるかどうか試してみます。  社会関係資本から考えると、人と人のつながり方を考えるときに、「結束型」と「接合型」という分け方をしました。「結束型」は特定の社会領域に限定された、つまり同じような背景と信条を共有する人々の閉鎖的なネットワーク。日本のムラやヤクザ、イタリアのコムーネやマフィアであったり、政治・宗教団体や終身雇用制の企業などがそれにあたります。  一方「接合型」は、コミュニティ外部との橋渡しや、背景の異なる人々を束ねる機能の強いネットワーク。これは、ボランティア・NPOや各種の組合、会社のなかのクロスファンクショナルなチーム、インターネットを中心とした電子メディアでのつながり、などがあたるでしょう。ちなみにそのなかで、橋わたし役になる人のことを、「ブリッジ」とか「ネットワーカー」と呼びます。 ●家族は「結束型」があたりまえ   では、家族はどうでしょうか。どう考えても結束型ですよね。   夫婦、親子、嫁姑それぞれの関係は、はげしく結束型コミュニティですね。ここでは、一般的信頼ではなく「限定的信頼」が重要視され、強い意味での信頼、つまり「信用」とそれに付随する「責務」や「ルール」が重要とされるでしょう。  『彼は絶対浮気しない、信用している』『盆と正月は、家族全員でいなかに帰るのだ』『子供の教育と養育は、オレが責任もってする』『お義母さんの言うことは、理屈ぬきで守るわ』。これがルールです。いや、これが正しいルールだと言っているのではなく、たとえばこんなルールを作って、互いに【安心】を育むのが家族なのだ、と思うのです。誤解なきよう。  極論かもしれませんが、ここでは、比較的厳しい掟と規範のしばりがあり、ファシリテーションの活躍する話し合いの場ではなさそうだ、というのが私の意見です。人格などの情報に大いに左右される限定的信頼のコミュニティ世界、外部の第三者を入れにくい閉鎖的なチーム、中立の許されない超コミットメント集団、とでもいえ ましょうか。  こんなところでファシリテーションしようなんざねえ、身がもたんよ・・・  この結束型のコミュニティでももちろん信頼は重要ですが、それは「信用」と「責務」に当たるもの。これまでの分け方の「一般的信頼」とは違います。互酬性も家族内で発揮されることと思いますが「互助」的、「相互扶助」的であり、「安心」の場ができればできるほど、そこで「甘え」という別種類の関係性が生じるのを経験しているのは、私だけではありますまい。   難関を乗り越えようとして、あらぬ方向に行ってしまったかもしれません。  しかし、みなさんの職場でも、家庭とおなじような状況はありませんか。長い時間を同じメンバーと過ごす職場です。家庭と同じ、結束型の安心ルールで動いていることが多くありませんか。そこは、話し合いの場が、いわば特殊な基準で形成されている世界です。擬似「夫婦」、擬似「親子」、擬似「嫁姑」による、安心構築指向の関係です。  私の経験では、それだけにとどまらず、職場でも、『養子縁組』『介護支援』『成年後見』『遺産相続』などの、家庭を超えるレベルの「安心をめぐる戦い」が繰り広げられていたりします。おそろしいですね、こわいですね、安心と信用をめぐる戦いはつづく、、、 <参考> 「世界三大難関ファシリテーション」 加留部貴行  FAJ泡の会発言録