第88回:2012年7月21日 赤テーマ 決断、待ったなし!防災ゲーム「クロスロード」体験!! 〜「もしも」に備えて、「いつも」できることを考えよう!〜中部支部

中部支部 7月定例会(赤テーマ) 報告
■日 時:2012年7月21日(土) 13:00〜17:30
■場 所:東桜会館 第2集会室
■参加者:23名(会員20名、非会員3名)
■担 当:林加代子、堀欣人(中部支部)
■テーマ:決断、待ったなし!防災ゲーム「クロスロード」体験!!
〜「もしも」に備えて、「いつも」できることを考えよう!〜

【担当者からのメッセージ】
「あなたは市役所職員。未明の大地震で自宅は半壊。家族は無事だが心細そう。電車も止まり、出勤には2、3時間。出勤する?しない?」被災時に起こるトレードオフな究極の選択が、次々とあなたに迫る。はたしてあなたは逆境を乗り越えることが出来るか!?

阪神・淡路大震災の体験から生まれたクロスロードは、ゲーム形式で被災時の「分かれ道」を体験することで、あたかも被災当事者として思考することでき、また市民と行政及び専門家間のリスクコミュニケーションツールとして注目されています。いつ起きてもおかしくないと言われている「東海・東南海・南海連動型地震」の切迫性が増す昨今。「自助・共助・公助」という視点を交え、市民の立場でそのとき何をするのか、今から何をしておけばいいのかを考えて見ましょう。

【ねらい】
・クロスロードを経験する
・災害への心の備えを考える
・自治的組織をファシリテーションの視点から考える

【プロセス】
1.導入(災害に備える基礎データの共有)
(1)東日本大震災のデータ
(2)東海、東南海、南海地震の想定を知る

2.クロスロード体験(クロスロードにじっくりと取り組む)
「出題→個人ワークで考える(クロスノートに記入する)→カードを出す→クロスノートをもとに話し合う」のプロセスを踏んで1問20分〜25分で行った。
例題を含めて5問。
補足等を後述。

3.グループワーク
「避難所生活1週間〜1カ月。この間の自治的な組織を運営する。そのためには?」
条件:組織図を作ることが目的ではない
他の人を巻き込んで運営していく仕組みを考える
避難所には300人ほど、町内会長が3人いる
以上のお題で、クロスロードでの話し合いや気づきを基にして、グループワークをした。

4.全体で共有
グループワークの成果をポスターセッションで共有した

5.ふりかえり
全員でひとことずつふりかえりをした。
・クロスロードの手法がわかった
・クロスノートを使うと考えが深まった
・初めての人と価値観がわかる話し合いができた
・「この決断は成功した」というのを聴いてみたかった
・後半のワークは面白かった
・後半のワークの無茶ぶりには困った
などの感想があった。

【担当者の感想】
クロスロードは、「結論は出さないのでもやもやした感で終わる。ずっと頭の中で考えることになる。」というのを目的としているのだろうと思っていた。後半では結論が出せてすっきりできるワークを、と考えた。「避難所で自治的な組織をつくる」と某市のマニュアルにあるが、どのように作るのかについては記載がなく、また、非常に難しい課題だと考えられる。ここに、ファシリテーターが必要なのではないかと後半のワークのテーマとした。ただ、事前の準備が不足していたことを痛感した。もう少しテーマについての練り込みが必要だった。それにもかかわらず、ちゃんと成果をだせるメンバーはすごいと思った、改めて感謝。


通常の報告は以上です。
下記、長〜い追伸になります。


【クロスロードに関しての補足】
・クロスロード初体験者向けを想定して行ったことで、経験者には物足りないものになってしまったこと、また時間の関係もあり事例紹介や出題意図にそうようなフォローを最低限に抑えたこともあり、正解のない「もやもや」にストレスを感じた方がいたようでしたので、それらの解消のためにも、下記を補足します。

・FAJでクロスロードファシリテーターを行った感想:
問題1〜3は神戸編(神戸市職員にヒアリングを行い、実経験に基づいたジレンマより作成された初期の問題集)の有名問題であり、堀がクロスロード勉強会で行ってきた限りでは(対象はほとんど公務員)意見が分かれる傾向にあり、そうなることを意図したにも関わらず、今回意見が偏り、グループによっては一方の回答のみというものも見られたのは正直驚きました。それは公務員と民間の方との違いなのか、たまたまグループによってはバックグラウンドの似通った人が偏ったのか不明なところですが、個人的には大変興味深い結果でした。また、グループで意見を聴き合うのも、振り返りで意見を出してもらうのも、想定を出し切るのも大変スムーズで、さすがFAJの方々だと感心しました。


例題:あなたは、市役所職員です。
未明の大地震で、自宅は半壊状態。幸い怪我はなかったが、家族は心細そうにしている。電車も止まって、出勤には歩いて2,3時間が見込まれる。出勤する(Yes)/出勤しない(No)

・回答状況 Yes:No
Aグループ 4:1
Bグループ 3:2
Cグループ 3:2
Dグループ 4:1

・出題意図:例題なので、単純に各々の職場ではどういう規則になっているかとか、家族と仕事を比した際の優先度合等、単純に判断しやすい問いにした。また、地方公務員の参集具合が避難や復旧の初動活動に多大な影響を及ぼすことから、原則参集することになっていることを知ってもらい、避難所運営等が当初は行政から開始されることを暗に示す。また一般の方であれば、有事の際は家族とどのような話になっているかが重要であることを認識してもらう。


問題1:あなたは、避難所の食料担当です。被災から数時間・・。避難所には、3000人が避難しているとの確かな情報が得られた。現時点で、確保できた食料は2000食。以降の見通しは、今のところなし。まず、2000食を配る(Yes)/
全員分揃うまで配らない(No)

・回答状況 Yes:No
Aグループ 4:1
Bグループ 3:2
Cグループ 5:0
Dグループ 4:1

・出題意図:公務員的判断基準である「公平性」の原則を伝え、そこから来るジレンマと、NPOやボランティア(避難者)との協働の在り方を考えてもらう。

・分析:公務員相手だと意見が分かれるところですが、一般の方の場合、配る判断が多数を占めたのは想定通りであり、公務員の行動原理を理解してもらうにはうってつけの問題となった。

・事例:阪神淡路大震災(1/17発災)において、神戸市(1/18)避難者数22万2,127人、その日確保された食料は、弁当7.6万個、おにぎり16.8万個、パン等14万個、乾パン6.5万個。食料の配送・流通状況、その他の食料供給の状況など複雑な要因がからむが、単純に被災者一人当たり1日2個しかない状況だった。「午前7時に、おにぎり千食が用意されたが、あっという間になくなった。同8時には乾パン千二百食が配布されたが、列を作った全員には行き渡らず、不公平だ。整理券を配れと職員に詰め寄る住民も」毎日新聞(1/18)神戸市長田区)。行政機関から、毛布1人1枚ずつわたる数になるまでは配布しないよう指示があり、切望する避難者が見の前にいながら配布できなかったという例や、食糧についても同様の指示があり、置いたまま腐らせてしまったとの報告があった(兵庫県教育委員会)。被災日夕方、初めておにぎり(490個)の差し入れが入ったが、避難者が1000人超。老人と子どものみに配布(西宮市内)。


問題2:あなたは、避難所担当の職員です。災害当日の深夜。市役所前に、救援物資を満載したトラックが続々到着。上司は職員総出で荷下ろしを指示。しかし、目下、避難所との電話連絡でてんてこ舞い指示に従って荷下ろしをする(Yes)/
避難所との連絡を優先する(No)

・回答状況 Yes:No
Aグループ 0:5
Bグループ 1:4
Cグループ 0:5
Dグループ 2:3

・出題意図:被災時におこる、どちらを選択しても支障が出る極端な例を取り上げ、悩んでもらう。

・分析:出題意図に反して、圧倒的に「No」が多く驚いた。上司の指示に反した行動をとることにより指揮系統が乱れる弊害を公務員は気にするのだが、非常時であればこそ正しいと判断したならば上司の指示に反することも辞さないという意見は新鮮であった。この問題も公務員と一般の人では回答傾向に違いが見られたと言える。

・事例:阪神淡路大震災(1/17発災)において、朝日新聞(1/18夕)「救援求め、列・列・列・・・」「食糧不足なお深刻」の見出しのもと、緊急援助物資の不足を報じ、対して毎日新聞(1/22)「届かない"善意"野積み」の見出し。


問題3:援助物資の担当課長です。
援助物資の古着が大量に余ってしまった。庁舎内には保管する場所がない。倉庫を借りるのも費用がかかる。いっそ焼いてしまう(Yes)/コストをかけて保管する(No)
・回答状況 Yes:No
Aグループ 3:2
Bグループ 5:0
Cグループ 2:3
Dグループ 2:3

・出題意図:切羽詰まった避難所運営の一局面を単純に打開することを選ぶか、マスコミを含め世間体を考慮するか、それともそれらを考慮した上で総合的に判断するのか、想定によって問題の深みが変化する問題を味わってもらう。

・分析:Bグループを除き、出題意図どおり意見が分かれたことに少し安心した。ただ合理性に徹した判断を全員が行ったBグループは驚きではある。

・事例:阪神淡路大震災(1/17発災)において、神戸新聞(1/24)「救援物資うれしい悲鳴:人手不足仕分けお手上げ、食料品以外は当面控えて・・・」との見出し。神戸市災害対策本部には被災後2ヶ月あまりで約43万個の小包。その51%が衣料品。この間、最大時で配送拠点、倉庫だけで22,400平方メートルの建物と、その整理に2万9千人のボランティアの手が必要だった。北海道南西沖地震(1993年)の被災地奥尻島では、救援物資保管のため1000平方メートルの仮設倉庫の建設、その費用3,700万円。他方、救援物資の約2割が仕分け作業の結果不要と判断し、焼却処分。その費用が560万円であった。


問題4:あなたは、会社社長です。東海地震の警戒宣言が発令された。事前の社内対応マニュアルでは社員を帰宅させることにしていたが、年度末の決算時期で営業を止められないのが本音。マニュアル通り帰宅させる(Yes)/帰宅させない(No)

・回答状況 Yes:No
Aグループ 5:0
Bグループ 4:1
Cグループ 5:0
Dグループ 5:0

・出題意図:時間が足りなくなることを想定し、単純に答えが出せるものを選択。「東海地震の警戒宣言」を知ってもらうことで、単純に知識のあるなしが判断を左右することを実感してもらう。利潤追求と企業倫理やコンプライアンスとのバランスの問題を味わってもらう。

・青座布団、金座布団の意味:クロスロードでは多数派意見であると青座布団、グループで一人だけの意見だと金座布団を得、他の人は得点できないという採点方式を採用しています。しかし、このことで何を意図しているかを開発者は明示しておらず、その解釈をあえて各自に任せています。堀の勉強会においては、多数派であることが避難所運営等防災活動を容易なもの、もしくはよりよいものにする可能性があり、また誰も想定できなかった一人の意見が皆に与える示唆が時に大変大きいものであったりすることがあり、一人ひとりの意見を大切にするという雰囲気を醸成することを意図して行っています。皆さんはどのように考えられますか。また、ゲーム性を持たせることは「率先して参加してもらう」「気楽にまじめなことを話してもらう」「他でも広めてもらう」ためにも重要な要素です。最近「ゲーミフィケーション」というキーワードが流行っておりましたが、今後、このゲーム性をどのように設定できるかも課題であろうと考えています。