第40回「『フューチャーサーチ』でコミュニティの未来を創造する!(2011年8月)東北支部

■テーマ:『フューチャーサーチ』でコミュニティの未来を創造する!

利害を超えた対話から、みなが望む未来を創り出すファシリテーション手法として注目されている「フューチャーサーチ」。8月の例会では、地域の活性化・まちづくりにフューチャーサーチを活用した、九州の事例を参加者で共有し、ワークも交えながら、「(この手法を通して)現場で何が起こったか?」について学ぶ場となりました。
 
>>開催の概要
■日時:2011年8月6日(土)13:00〜17:45 (受付開始 12:30)

■会場:錦町研修室

■参加者:17名

■情報提供者・ファシリテーター:山口覚さん(九州支部副支部長/NPO法人ローカルアントレプレナースクール副代表理事、NPO法人地域交流センター津屋崎ブランチ)

■東北スクエア例会担当:遠藤智栄(COファシリテーター)、佐藤雅英、中西百合、森瀬康之
 
 >>プログラム

1.ガイダンス(遠藤さん)
FAJ並びにファシリテーションへのお誘い、本例会の目的(調査・研究・学びあい)、本日のテーマ(フューチャーサーチについての情報交換とワークを通して、その一端を体感すること)などを説明

2.自己紹介(参加者全員)
場を温めるために、サークル型に座り、「名前」「仕事」に加えて、「今日の例会に期待すること」「自分の性格」にも触れつつ、順に自己紹介。
最後に、ファシリテーターの山口さんによる(詳しい)自己紹介。

3.情報提供フューチャーサーチとは?(山口さん)
「フューチャーサーチ」という手法について基本的な知識を共有。(ポイントは下記の通り)
プログラムは3日間で行うのが基本
典型的なプログラムの流れ
【過去に起こったことを、解釈せずに認める】→【現在を振り返る】→【その上で、望ましい「未来」を描き、実現に向けたアクションプランを作る】

各プログラムの内容とその狙い:
第1日 過去を見る(過去、何が起きたのだろう?)
タイムライン」という手法を用いて、3つの視点(グローバル、ローカル、パーソナル)から「歴史年表」を作り、相互の関係性を眺めつつ、過去を振り返る。
第2日 現在と未来を見る
[AM] (前日の)過去の探求を踏まえて、「プラウド&ソーリー」という手法により、現在、胸を張って言えることと、残念だと思うこと、の両方を出し合い、認め合い、自己開示を深め、共有する。
[PM] 「過去」および「現在」から離れて、白紙のキャンバスに「理想的な未来のシナリオ」を描き、“みんなが求めている未来“としての「共通の拠り所(Common Ground)」を見出す。
第3日 アクションプランを作る
共通の拠り所をもとにして、未来のシナリオと現在をつなぐ「アクションプラン」(およびスケジュール)を作成する。実現性を高めるために、利害関係者に加えて意思決定権のある人たちが集まる必要がある。
・「ジェットコースターに乗る」
メンバーそれぞれの自己開示を通して、過去を振り返るときにつきまとう絶望感についても全員で共有することがポイント。(絶望の谷に落ちるからこそ、希望の頂が見えてくる)

4.情報提供:フューチャーサーチの実施事例?【川南町(宮崎県)での事例】(山口さん)
平成22年、口蹄疫(家畜伝染病)による大きな被害が発生し、町の復興を目指す川南町において、当地の青連協(以下、「メンバー」)と行った2日間の話し合い(FAJ会員斉藤望さんが発起人である「すごい復興未来会議」)を題材に、フューチャーサーチのナマの事例を共有。

>問題意識
「口蹄疫さえなければ、川南町はハッピーだったのか?」「川南町にとっての本当の復興とは?」
>プログラムは2日間で実施。原則的な「過去→現在(→未来)」の順ではなく、より語りやすい「今」を先行させる形で、「現在→過去(→未来)」の順で行なった。
>プログラム(初日)
?長い自己紹介(一人10分)の後、?「(川南町にとって)町作りとは何でしょうか?」というテーマでのワールドカフェを実施。「暗いムードになるのでは?」との事前の予想に反して、テーマに対して各メンバーから出された答えは、「行動宣言」とも呼べる、明るく前向きな内容であった。
>プログラム(第2日)
初日のワークの結果に対して、山口さんを含む事務局会議(FAJ会員斉藤望、田坂逸朗を含む3名)では、「表面的には盛り上がっているが、皆、ホンネを話していないのでは。」「このままでは、表層的で薄っぺらなものになってしまう」「自分たちの行動を客観視して欲しい!」などの厳しい意見が出された。そこで、冒頭、事務局から上記の考えをメンバーにぶつけることで、会議への介入を決意。まず、?「円卓会議」により、各メンバーの自己開示を促し、これまで、口にしづらかったネガティブなホンネを言い合える場作りを行った。
その後、?「タイムライン」→?「プラウド&ソーリー」を通して、自己開示を進め、最後に、「未来の川南はどんなイメージ?」というテーマで行った?「ストラクチャード・ラウンド(*)」を通して、川南町の好ましい未来像をピックアップし、最終的に4つのシナリオ(以下)にまとめられた。
 ? 修トン(豚)旅行
 ? 口蹄疫ギネス
 ? 食に感謝する日
 ? 日常を語る会
(*)参加者が輪になって与えられたテーマに対する答えを直感的(方法論は問わない)に答える事で、アイデア出しをする方法。この場では、ストラクチャード・ラウンドで出された100程のアイデアをグルーピング→参加者の投票により上位4つを選択→投票者が中心になってそれぞれのシナリオを作成した。

5.意見交換:「川南町の事例を聞いて、どう感じましたか?」(山口さん)
事例について、3人一組で、気づいたこと、考えたことを出し合い、共有(5分程度)→全体で共有(15分程度)

<参加者のコメントと対話>

  • フューチャーサーチには、自己開示のプログラムが組み込まれているように感じた。
  • 「自己開示」は日本人(とりわけ、東北人?)の気質上、難しいのではないか?(九州人と東北人の違いも?)→「長い自己紹介」は自己開示に効果的である(概ね10分程度。最大30分も経験あり)。しかし、空気を読まざるを得ない人間関係(例えば上司と部下など)などが自己開示に大きな影響を与える。(山口さん)
  • 絶望を味わうからこそ、前に進めるのではないかと感じた。
    →「アイデアを寝かせる」ために、1日で終わらず一旦眠りにつき、2日間で行ったことにも意味があるだろう。(山口さん)
  • 2日目に、絶望を共有する方向へ舵を切ったファシリテーションは素晴らしい。→介入は大きな影響を与えるので非常にデリケートなことでレアなケースだと思う。(川南町での経験では)3人で深く話し合ったことや、2日目の冒頭に切り替えるタイミングがあったことでそれが上手く機能した。また、ファシリテーターを1人ではなく3人交代性(進行1名、グラフィック1名、観察1名)で行ったは、場を冷静に眺めることができたという点で有効だと感じた。(山口さん) 

6.ワーク:「タイムライン」(山口さん)
>「タイムライン」の作成
「タイムラインin 東北」というテーマで、グローバル/ローカル/パーソナルに区分された(白紙の)タイムラインに向かって、参加者全員で自由な書き込みを行った。(写真)
>振り返り
出来上がった「タイムライン」を眺めて、「どんな読み解きができるか?」について、近くの参加者と意見交換→全体で共有
 

<参加者のコメントと対話>

  • 2000年以降、なぜか、記憶に残ることが少ない
    →(アナログから)デジタル化が影響?情報量の増加により、一つ一つの情報価値が低下した?
  • 「失われた20年」とは、新たな価値の模索をしていた時代ではないか?
  • もはや、ローカルとしての役割がなくなってきたのか?
  • 自分たちのローカル(地元の祭りやイベントなど)への関心・関わりが薄くなったのは間違いないのでは?
  • (タイムライン上の)ローカルの中味を見ると、「豊かな未来」がイメージできない
  • 自分たちの立ち位置が問われているのでは?
    →「未来は予測するものではない。未来は創るものだ。(アラン・ケイ)」(山口さん)

7.フューチャーサーチの実施事例?【津屋崎(福岡県)での事例】(山口さん)および意見交換

平成22年11月に開催した、新しいまちづくりの学校という勉強会で、自治体職員、大学生、NPOなどが集まり、「大河の最初の一滴の方法論」というテーマで3日間のフューチャーサーチを行った。
自らが具体的な行動を起す事で未来を変えるという趣旨でワークを行った。ここで提案された、「協働を真に実現するためのNPOと自治体の人事交流」は、平成23年度に実現。NPO法人地域交流センターの職員2名が福岡県大刀洗町の役場庁舎内に机を構える一方で、地域交流センターに大刀洗町役場職員が派遣(3カ月おきに4名)されている。

8.ワーク:「ジャーナリング」(遠藤さん)
この場で見聞きして、学んだことを振り返り、自分の中に書き込む時間。個人ワークにより「グローバル」「ローカル」「パーソナル」のそれぞれについて、今後の行動やテーマについて考える→グループ内で開示・意見交換→全体で共有

<参加者からの意見>

パーソナル:自分の仕事の未来、家族の未来、会社の風土改革、自分の能力開発、自分の幸せなど
 
ローカル:地域自治組織の未来、商店街の未来(利害関係者を集めて)、子どもと関わる組織、(スポ小など)の未来など
 
グローバル:日本の未来(例えば、離れた地域の高校生同士で)、原子力の未来など
 
9.最後に:「全体を振り返って、気付いたこと・感じたことを共有する」(遠藤さん)
 
>「タイムライン」について
  • フューチャーサーチを3日間行うのは大変だが、「タイムライン」という手法を、自己開示を促し、過去や現在から、やる気や危機感を共有するツールとして活用する道があるように感じた。
  • 自己開示を促すことを優先する意味で、「タイムライン」を導入部に持ってくる、という手法も可能だろうか?
  • ただし、できあがった「タイムライン」から、メンバー内でどれだけ深い読み解きができるか?がポイントだろう。
  • タイムラインを読み解き、共有する際に、(タイムライン上の)余白部分に、適宜、キーワードを書き込んでいくことも大事なテクニックだと感じた。→タイムラインを区切り、各時代に(皆が納得できる)名前をつけるという方法がある。(山口さん)

>「フューチャーサーチ」について

  • ー般的な能力開発等の手法とは違って、過去を振り返り、絶望を恐れず、受け入れていくことの必要性を感じた。
  • フォアキャストではなく、バックキャスト的視点を取り入れてやっていくことに意味を感じた。

 

<参加者アンケートから>

  • さまざまな技法を組み合わせて未来を作りあげるということ、素直に入ってきました。自分でも使いたい!という発想がわいてきたことに驚いた。
  • 前に進むためには本音が必要。
  • 過去を振り返ることの大切さに気付いた。
  • 山口さんの情熱が感じられるプログラムだった。良い時間を共有することができた。フューチャーサーチを実現していく上では、根回しも必要だとも感じた。
  • タイムラインとプラウド&ソーリーは参加者の意見を引き出す有効なものであると感じた。

<例会担当者の一言>

  • フューチャーサーチを行う事によって起きた「現場感」」を出来るだけ伝えたいと僕自身必死でした。その思いを受け取ってくださったようで本当に嬉しく思っています。この日があったから未来が変わったといえるときが近い将来にやってくるでしょう。ありがとうございました(山口) 
  • 山口さんのアントレプレナー&ローカルチェンジ・ファシリテーターの熱意がとても伝わってきて、「在り方」について、とても刺激を受けた。今後も九州と東北で交流を進めたいと思った。(遠藤)
  • 現場は教科書通りにいかない、複数の目で見ることが有効。当たり前のことですが、実例を聞いてものすごく「腹に落ちる」感じでした。タイムラインの活用、いったんみんなで谷底に落ちるなど、今回の内容は復興に向けてはもちろん、仕事の中で直ぐに活用できることがたくさんあるなと思いました。多くの行政マンに聞いてもらいたい。(中西)
  • 「タイムライン」は応用範囲が大変広いと感じました。過去を知り、現状を把握した上で未来を築き上げることはビジネス界でも有効だと思います。それと未来を築くためには本音のトークがポイントになりそうです。(佐藤)
  • 例会の最後、山口さんは「私は研修講師ではなく、まちづくりファシリテーターとして、5年後、10年後を作っていく一員でありたい」と仰っていました。気さくで優しい語り口の中に、揺ぎない信念やミッションを感じたのは私だけではないはずです。川南町での取り組みに、この度の震災復興にも通じる普遍性を発見できたのは大きな収穫でした。(森瀬)