2011年12月度 定例会報告「自分たち事」をつくるために北海道支部

テーマ:「自分たち事」をつくるために
〜 情報デザインとファシリテーションの<あいだ>で〜
日 時:2011年12月3日(土)13:00〜17:00
場 所:ちえりあ(札幌市生涯学習センター) 中研修室2
参加者:40名(非会員3名)

北海道支部では、12月定例会を北海道大学環境科学院から渡辺保史さんを招き、「『自分たち事』をつくるために 〜 情報デザインとファシリテーションの<あいだ>で〜」と題して参加者40名で行いました。
渡辺さんから簡単な自己紹介の後、さっそく最初のワークです。レゴブロックを使って「情報の構造化」を体験するというアクティビティ。自分が作ったブロックの構造物の組み立て説明書を、絵や図を使わずに文章だけで書きます。書き上げた後に、作り上げたものをバラバラに分解して、他の人と交換し合い、渡された説明書に沿って、実際に作ってみます。すると、作者が作って伝えようとしたものとは違う構造物ができてしまうペアが続出。説明書通りにできたペアでは歓喜の声が上がったりしていました。
このワークについて、ペアで振り返ってみた後に、全体で共有したところ、「うまく伝えることは難しい」「丁寧に書こうとするあまり、余計な情報をいれてしまった」「最初に大まかなイメージを伝えることが理解のガイドになった」「同じ言葉でもいろいろな意味を持っている」などの声が聞かれました。
このアクティビティを受けて、渡辺さんから、情報デザインについてのレクチャーが行なわれました。人間同士のコミュニケーションには、あたかも氷山の一角のように目に見えている言葉やイメージだけではなく、海面の下に隠れている氷山の大部分----当人の価値観や育ってきた文化や環境といった目に見えない部分が大きく作用しているという「氷山モデル」という考え方がある、と渡辺さんは説明します。氷山モデル的な、コミュニケーションに関わる情報のギャップを乗り越え、人と人の間で伝えたいことを的確に伝えていくプロセスをつくるには、「受け渡す」ことと「読み解く」ことをつなぐことが必要で、「想いやるデザイン」としての情報デザインの発想や手法が大切になってくる、と語ってくださいました。
さらに渡辺さんから情報デザインの本質につながる解説が続きます。情報デザインとは、断片的なデータを組織化することで情報に変え、それが人から人へ受け渡され理解されることで知識となり、そして知識が活用され社会に共有される知恵へと受け継がれていく一連の過程に関わる技術だと渡辺さんは語ります。古くは、様々な地図のように、現実世界における多様な関係性を表現することに始まり、現在ではソーシャルメディアなど、情報デザインの領域は人間が活動する環境全体に広がっています。また、渡辺さんは、ごく一般的な家庭の台所にある冷蔵庫のドアにも情報デザインがあると指摘します。ドアにクリップでまとめられたレシートやチラシ類を貼った冷蔵庫も、「情報のカテゴリーごとに分類し、それを空間的に配置しているという意味で、家庭の主婦も立派な情報デザイナーなのです」と言います。
情報デザインは、ただ単に情報の中身をキレイに作りこむだけではなく、人と人とをつなげることも重要な役目だというのが、渡辺さんの主張です。ご自身がこれまで取り組んできたウェブサイトのプロジェクトや都市再生ワークショップなどの事例をあげながら、「情報デザインという概念は表現や成果に注目して語られがちで、他方、ワークショップやファシリテーションは支援やプロセス、個人と集団の関係にフォーカスしているが、実際に両者が行っていることは大きく異なるものではない。むしろ両者は社会的な実践を別の見方で捉えることでもあり、ファシリテーションにとって情報デザインは密接不可分なものだと思う」とのコメントは示唆でした。

休憩をはさんで、後半のワークは、レゴブロックを使ったワークのチーム戦です。先ほどの「レクチャーでの発見や気づき」をテーマに、今度は2人ひと組のペアで構造物を作り、前半のワークのように文章で組み立て説明書を作っていきます。レゴブロック置き場に人々が集まって、使うブロックを手にとって話し合ったり、文章の書き方について検討し合ったりなど熱心に協働する姿がみられました。
この後半のワークでは、前半に比べると明らかに「受け渡す」「読み解く」行為が意識的に行なわれ、説明書づくりとそれにもとづく再現作業も円滑に進んだように見えました。このワークの振り返りでは、「伝わりやすい書き方について考えることができた」「長い文章は分かりにくいことがある」「2人で作ることで共通認識を持つことができる」などの気づきが共有されました。
プログラムの締めくくりのレクチャーでは、渡辺さんから、ワークショップ的な参加体験の場においてはファシリテーターがある種のデザイナーとしての役割を積極的に担うことが必要な場合があり、一方でデザインプロジェクトにおいても、クリエイターだけで独善的なものづくりに固まってしまうのを回避するのにファシリテーター的な存在が介在することが求められるようになっている――とのお話がありました。
渡辺さんからは、「今回のワ−クでは、ブロックで構造物を組み立てる手順を考えることで、何らかのデザインの際に要素の1つ1つを的確に捉えていくことや、「関係性を表現する」ということへのリアリティを獲得できたのではないか」とのコメントをいただいたうえで、「一般的には専門的な技能として見なされているデザインの中には、構造化や可視化の力など、一般教養として学ぶことが重要な知識や技法もある」との指摘もなされました。
参加者から集まったアンケートでは、「分かりやすく伝えることの諸注意を確認することができた」「仕事の教え方に考えなおさなければいけないと感じた」「考える人が増えると、さらに良い方法が見つかる」「ゴールのイメージの共有が大切」「受け手に配慮してものを伝えることをしていなかった」「レゴブロックは使える」――などの感想が寄せられました。また、ここで得た学びを活かすために、「ちゃんと伝わっているか確認する」「相手(受け手、場)を想いやるファシリテーターを目指す」との意気込みを感じるコメントもありました。