2018年2月17日東京支部イベント『ファシリテーションのスタートライン-"話し合い"を促進することの本質に触れる一日-』レポート東京支部

交流親睦事業:2017年度FAJ東京支部イベント報告

テーマ

『ファシリテーションのスタートライン-"話し合い"を促進することの本質に触れる一日-』

イベントコンセプト

ファシリテーションが世の中に生まれてどれくらいの時間が経っているのかは定かではありませんが、現在ではFAJに限らず、様々なところでファシリテーションを探求する場や人も増え、ファシリテーションの解釈も多様になっていることは明らかです。でも、そのような中でも、本質的、根源的な大切な共通する何かが存在するのではないか?という仮説のもと、軸になるコンセプトワードを「原点」とし、人と人が集まった時に自然と発生したと思われる「輪になって語る」という原点的な"対話"の時間を通して、ファシリテーションの本質について考える場を創りました。
例年のように多くの分科会テーマを揃えることはせず、一日を通して「輪になって語る」。ここに絞ったところが今年の大きな特徴です。ファシリテーションの知識・経験の多寡に関係なく、多様な人々が共に語り合い、混ざり合いながら、ファシリテーションの本質に触れる。そして、スタートラインの手前にいる人にとっては、今日が始まりの体験になるかもしれませんし、既にスタートラインから一歩踏み出し走り始めている人にとっては、原点に立ち返る体験になるかもしれません。そんな体験から、参加者それぞれが自分なりのファシリテーションの本質を見つけ、明日からの自身のチャレンジに対するイメージを持ち、ファシリテーションのリスタートの一歩を踏み出すことを目指しました。

実績報告

  • 日  時:2018年2月17日(土) 10:00~17:00
  • 場  所:スクエア荏原(東京都品川区荏原4−5−28)イベントホール・大会議室・中会議室
  • 話題提供:中野民夫(東京工業大学、FAJフェロー)グラフィックレコーディング:福井修己(FAJ会員)
  • 参 加 費:会員3,000円、非会員 4,000円、学生 2,000円(弁当代込)
  • 参加者数:申込総数253名(一般119名、会員115名、学生19名)
  • 参加総数:228名(受益者 会員:85名、一般:119名、従業者 会員:24名)

プログラムの流れ

時間

内容

10:00~

オープニングと場づくり

10:30~

午前の部  "輪になって語る"意味を考える

        ~話題提供 中野民夫さん~

12:30~

ランチタイム

13:30~

午後の部① "輪になって語る"体験からファシリテーション本質を探究する

        ~この指とまれ分科会~

15:30~

休憩

午後の部② "輪になって語る"体験からファシリテーション本質を探究する

  ~分かち合いの場~

17:10~

クロージング

18:00~

懇親会

●午前の部

話題提供者にFAJフェローの中野民夫さんを迎えて、全体ワークショップを行いました。まず、導入ワークとして、東工大立志プロジェクトで"輪になって語った事例"を取り上げ、参加型の授業の意義と効果を、そしてワークショップやファシリテーションについての簡単レクチャーも行いました。またチェックインでは、関係の質を上げることの大切さに触れ、さらに京都や屋久島という環境から中野さんが会得したヨーガから、「比べない、頑張らない、ゆっくり丁寧に」を今日の心構えとし、中野さんの歌と共に参加者に意識づけして、マインドフルネスで心の準備を整えて、イベントをスタートしました。そして本題「話し合いについて考える」時間では、話し合う"形"という観点で「輪になって座る」と何が違うの?という話から、中野さん自身のファシリテーションのスタートラインのお話や、"話し合い方"という観点から「会話・対話・議論の違い」について触れ、中野さんが体験したピースメーキングサークルの源流を探る旅のお話へ。そこではネイティブアメリカンの長老たちの話やトーキングピースを持って大地や火などを囲んで語り合った実体験を写真と共に語ってもらいました。そして、

輪になって座る道具"えんたくん"を使った「えんたくんサークル(ワールドカフェ)」を行い、午後のワークのテーマ出しのための対話を行いました。

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●午後の部①

「この指とまれ分科会」と称して、参加者が出したテーマにそれぞれがサインアップし、小グループで輪になって語る対話を行いました。もしテーマが出なかったら・・・という心配をよそに60個以上ものテーマが出てきてグループ分けに時間を要し、その後のプログラムデザインを変更することになりましたが、会場のあちこちに、"小さな輪になって語る場"が沢山生まれて、深い対話が繰り広げられた時間となりました。

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●午後の部②

午前の部で一緒に話したホームグループに戻って、各人の対話の旅の体験をシェアした後、全体での分かち合いの時間へと進みました。最後は一つの輪で一つひとつの話をじっくり丁寧に扱いたいという中野さんの提案から、フィッシュボール(金魚鉢)の手法を活用。実行委員からゆっくり感じていることを話し始め、一人またひとりと輪の中心人物が入れ替わり、対話を深め、全体で輪になって分かち合いを行いました。230名もの参加者がその場に居ましたので、物理的な距離が遠くなってしまう方も生まれてしまうリスクはあったものの、焚火を真ん中に、会場一杯に何重にも重なる輪で一つの話し合いを行う状態は、本当に圧巻の場となりました。

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●クロージング

クロージングでは、イベントの開始前からプロセスを可視化してくれていた会員の福井修己さんのグラフィックレコーディングを見ながら、一日の場で起こったことを振り返りました。

そして、ウォーキングプレゼンテーション。今日の気づきや学び、今日芽生えた想いをチャレンジシートに書き込み、それを持って会場を歩き回ってペアを探し、お互いに黙って見せ合い、無言でお互いのチャレンジを応援し合いました。途中からは会話も解禁とし、場はクライマックスに!。最後は中野さんのクロージングトークと歌でイベントは締めくくられました。

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アンケート

①参加者の満足度

参加者の満足度については、"全体"、"午前の部"、"この指とまれ分科会"共に90%を超える方が満足と感じており、多くの方に評価をいただけた結果となりました。

コメント欄からは、多様な人と対話できた、輪になって話すことの意義を実感できた、心ゆくまで対話できた、安心安全な場だった、といった声が上がっています。また、考え抜かれたプログラムや問いの作り方、話題提供の内容などについても評価を示している声がありました。

ただ、最後の分かち合いに関しては、満足の割合が少し下がっています(84%前後)。コメント欄からは、集中を保てなかったという声がいくつか見られたことからも、やはり大きなサイズで輪になって語り合う際の物理的な距離感が影響していたと思われます。

また、会場の物理的な広さと人数の多さから、動きにくい、荷物が置けない等、参加者に不便を感じさせた可能性はあります。ここ数年東京支部が活用してきた民間施設は余りに高価なため参加費を高めに設定せざるを得ませんでしたが、今回は安価な公共施設を利用することで参加費を抑えることができました。しかしながら、参加費を抑えることを優先させるか、広さや使いやすさを優先させるか、というのは常にジレンマとしてある、ということも改めて感じました。

●全体 2017ibe_all.jpg

●午前の部2017ibe_am.jpg

●この指とまれ分科会2017ibe_ost.jpg

●分かち合いの部 2017ibe_wakachiai.jpg

●運営面2017ibe_unei.jpg

②広報チャネルと参加動機

広報チャネルでは、Facebookのシェアでこのイベントを知ったという一般の方が多かったことが分かります。これは初動から東京支部イベントのFacebookページで意識的に広報発信をし続け、その結果として、このイベントに"興味あり"や"参加表明"をしてくれた方が2,833名にも上りました。今回初めてFAJのイベントに参加した方からは「沢山の"いいね"がついているイベントだから参加してみようと思った」という声もあった程です。

参加動機としては、"ファシリテーションへの興味"が上位に挙がってくることはある意味必然的ですが、"主題に惹かれた"という声も多く、今年のコンセプト、テーマ、コンテンツ内容が参加者に響いたのではないか、ということが伺えます。

支部イベントは交流親睦事業であり、広く沢山の一般の方に参加して頂くことは、実行委員会の一つの目標であり、毎年のタスクの中でも広報は大きなチャレンジ対象となっていますが、今年は申込オープンと同時に一般からの申込が一気に入り、スタートダッシュはとてもよい状態でした。そういった意味でも、戦略的なFacebookでの発信、参加者に響くテーマ設定は支部イベント成功の重要な鍵になると言えそうです。

●広報チャネル 2017ibe_channel.jpg

●参加動機 2017ibe_douki.jpg

③参加者属性

参加者属性としては、一般の方に学生や20代30代の若者の参加が多かったことが特徴的です。また、一般の方の6割の方が何らかの形で"ファシリテーションを実践している"と答えています。このことから、FAJ以外でのファシリテーションの広がりは意外と進んでいるのではないかといえるのではないでしょうか。

また、会員歴6~9年の方の人数が少なく、中抜け状態になっていることは、昨今のFAJの特徴を示しており、ある程度歴のある会員の継続性は引き続き課題であると思います。

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●実践度合

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実行委員の振り返り会

  • 日  時:2018年3月10日(土) 10:00~17:00
  • 場  所:FAJ東京事務所(東京都渋谷区千駄ヶ谷3丁目12番8号)
  • 参 加 者:実行委員12名、ファシリテーター:長橋良智(FAJ会員)
  • 内  容:
  1. 振り返りに参加できない人もいるため、事前にオンラインで振り返りコメントを収集して共有。
  2. 各人が、起ったこと感じたことを付箋に描き、タイムラインで共有。
  3. タイムラインを踏まえて、PICA(Perspective:観点、Insight:洞察、Context:文脈、Analysis:分析)という考え方で、小グループで対話し、それぞれ話の内容を共有しながら振り返りました。
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所感

今回のイベントの在り方は、フェローの方は話題提供してもらうだけの役割、とか、イベントは沢山の分科会ワークショップをするもの、というFAJの支部イベに対する固定概念となっているものを取り払うきっかけになったと思っています。これは、これまでのイベントの在り方と比較して、良い悪いという話ではなく、色々なイベントの在り方があってもいいのではないか?という視点の投げかけになったという意味で意義深い場になったと思っています。

また、イベント実行委員に関わろうとするメンバーの目的はそれぞれ様々である中、昨年夏のキックオフ以来、チームの中では衝突もあり、メンバーの入れ替わりもあり、みんなそれぞれ心痛むこともあったかもしれません。しかし、トコトン話し合って、納得いくまで皆で組み上げていった結果、イベントの大切な軸が明確になり、中野さんの前ノメリな参画も相俟って、プログラムもシンプルになり、実行委員会全体で"一つのものを創り上げる"という状態になっていきました。ここから一体感がぐっと醸成され、その結果、現場力のある臨機応変な運営ができるチームになれた気がしています。

中野さんとふりかえった時に、中野さんご自身も、イベントの場は本当に色々なことが起こる場だったので「必死だったよ~!」とおっしゃっていましたが、まさにファシリテーションは場を観て、主体である参加者のアウトカムに向けて、"いまここ"で対応することが大切なことなんだな、ということも学べたイベントとなりました。

このイベントの実行委員の活動を通して、短期的にチームビルディングをしながら、大きなイベントを成功させるということは本当に難しいことであると同時に、とても楽しくやりがいのあることだということもしっかりと実感することができました。直前に実行委員長がインフルエンザによって当日不在になるという事態になりましたが、実行委員長が不在でも、実行委員全員がそれぞれ補い合うように動き、みんなの力が一つになってこの場を成功に導いてくれました。本当に感謝しています。

『場を信じ、仲間も信じ、困ったら言う、言ったら助ける』

これは我々実行委員会メンバーの運営のグランドルールです。まさにファシリテーターとしてチームのメンバーとして、常に胸に秘めておきたい原点のような言葉です。ありがとうございました。

報告者

2017年度東京支部イベント実行委員長
飯島邦子

報告日

2018年04月12日