2025年3月定例会レポート テーマ3 あなたが/家族が介護を受けるとき、本当に「話し合い」ができますか? ―「介護と話し合いを考える」 第1回東京支部
調査研究:東京支部 2025年3月度定例会
テーマ3 定例会 あなたが/家族が介護を受けるとき、本当に「話し合い」ができますか? ―「介護と話し合いを考える」 第1回
開催日
2025年3月25日(土)13:00~16:45
会 場
かつしかシンフォニーヒルズ別館 ローレル
ファシリテーター・企画運営担当
西村舞由子(FAJ会員 東京支部)
企画運営担当
西村舞由子・尾上昌毅・佐藤尚吾(FAJ会員 東京支部)
参加者数(会員)
10名
一般・見学者数
4名
テーマ詳細 プログラム内容 担当者振り返り 参加者コメントなど
【本テーマの主目的・検証したかったこと】
定例会の前後で、参加者に以下のような変化がみられるかを検証した。
①自分や家族に介護が必要になった時のことを、前向きに捉えはじめている。
②介護とともに自分らしい暮らしをするためにいま何を備えたいか、考えはじめている。
③備えとして誰と、何を、どのように話し合っておきたいか、考えはじめている。
【主目的・検証したかったことについての実施結果】
・主目的①について
一般的なイメージから徐々に自分の内面に迫る段階的な問いを経て、参加者自身が「自分が介護される側になったら」と最後までしっかりイメージしてもらう流れを作ることができた。「介護される側の気持ち」を心底理解することこそ、大切な人を介護する最大の備えとなることを最後に伝えると、それぞれに肚落ちした感触があった。
・主目的②について
介護の大目的を 「自分らしい暮らしを叶えること」とあらかじめ設定しつつ、介護現場のしくみやリアルな情報を伝えることで、各参加者に「こうしておきたい」「これでいい」などの意見が自然と形成された。最後、精神的な発露が許される円座の場づくりで、それらの意見が自然に表現された。
・主目的③について
最後に問いを立てたところ、全員が「話し合い」の内容まで明確になったわけではなかった。しかし、話し合いが「不要」ということではなく、今後自分ごととして考え続けたい内在化された問いになっている様子が感じられた。継続したテーマにて行う、5月定例会へつなげる課題としても提示できたと考える。
【実施内容】
1.イントロダクション 趣旨の説明と今回のゴール
2.チェックイン チームに分かれて自己紹介
3.アイスブレイク「不自由体操」
・自分の身体が不自由になったらどうなるか? 疑似体験
①イヤホンをして、膝にテープを巻き体操する
②使い捨ての手袋をして、各自の財布から小銭を出し入れする
4.対話ー1
・「介護」のイメージ? 「介護」すること? 大切な人とは? そして自分のことを考える
5.話題提供
・現場介護者ふたりとMFとのトークセッション「くらしのなかでの介護」
6.対話ー2
・介護が必要になっても、自分らしく暮らすために大事にしたいこと
・それを叶えるための備えとして、いつ、だれと、どんな「話し合い」をしたいか
7.チェックアウト「今日、改めて気づいたこと」
8.本日のまとめと5月の定例会へのお誘い
【アンケート結果】
・テーマの満足度 ★★★★☆(4.6)
・ファシリテーション・進行について ★★★★☆(4.6)
・プログラムの構成、内容について ★★★★☆(4.6)
【参加者の声】
・最初から最後までストーリーがしっかりしていて、すごく腹落ちできた。
・ファシリテーションの流れを学べることができ、今後に活かしたい。
・ファシリテーターの覚悟と、問いとプログラム構成が素晴らしかった。
・場に寄り添ったファシリテーションで、大事な話をしても大丈夫という場をつくりあげていた。
・介護する側ではなく、自分がされる側になったときのことをしっかり考えられて良かった。
・「べき論」を外す、おやくそく(ルール)がよかった。
【企画側の気づき】
・介護のテーマでの話し合いには、プライベートが多く話されるため、冒頭に全体で場の安全性を確保する約束(具体的には、「ここでの内容を他に持ち出さない」「『~すべき』などのかたくなな言葉は、(思ってもいいから)一旦こころに置こう」など)をしておくことが必須とわかった。
・「介護」は個別性が強く、理想的な「答え」は存在しないだけに、「参加者にどうなってもらいたいか」のねらいや目的が設定しづらく、企画側内でもとても揺れ議論した。最終的には、普段あまり考えない介護について話し合い、少し具体的なイメージと前向きな気持ちが形成されるという小さな一歩を目的として、そこへの問いを丁寧に作った。そのプロセスが今回の参加者には適合し、自分の意見が引き出されて心地よく感じられたのではないか。
・上記の問いを起承転結の「起承」とし、「転」を現場介護職の話としたことで、流れが単調にならず、視点の変換を自然に促すことができた。現場職の講義ではなく、MFとのトークセッション的なやり取りにしたことで、職業介護者の「建前」ではなく「本音」が表現され、参加者に対してよりリアルな印象を与えたようだった。
・最後まで「自分が介護されるとき」をイメージし尽くしてもらった後、「『自分が介護を受けるときどうしたいか』は、大切な人を介護するときにも反映される」ことを伝え、「結」とした。最後にこの視点の変換を置いたことで、WS全体がストーリーとなり伏線が回収され、参加者への腹落ち感を形成したのではないかと考える。
【ファシリテーターの感想】
・上記の通り、このテーマでの「目的」「ねらい」を設定することの難しさを痛感した。専門職なだけに、どうしても理想論的な目的になりがちで、内省することが多く、苦しかった。こちらから提示するのは、ともに考えたいという姿勢、可能な範囲で前向きな方向を示唆すること、場の安全性を守ることくらいで、場や着地点を完全にコントロールすることはできず、その必要性もないことがわかった。参加者から起こってくる偶然性を信頼することも、MFの役割だとわかった。
・MFは書籍編集者でもあるが、WSの企画の組み立ては書籍編集にとてもよく似ているとあらためて感じた。参加者がこのタイミングでこの問いを出されてどのように感じるか、目を閉じてイメージし、しっくりくるかどうかを何度かシミュレートして、前日までに納得できる構成・内容にできた。反論も含め、一緒に企画を考えてくれた全ての仲間に感謝したい。
・WS開始当初は、いままで出会った素晴らしいMFのふるまいや雰囲気を意識してたどたどしかったが、途中から「わたしらしいMFであればいい」「何をどう感じるかは参加者の領分だ」と、自分の内部にしっかり境界線を引くことで、堂々とふるまい、出す問いの趣旨も自分らしい方法でしっかりと伝えることができた。後半は、問いを出した後はリラックスして進めることができた。
・介護について考えることは、重く怖いことと多くの人が思い込んでいる。一人ではなく、みんなで考えるこのような場がもっとあってもよいのではないかと感じた。5月には、「話し合い」がその怖さや重さを払拭できる可能性をより具体的に提示したい。また、個人的にも別の機会があれば開催してみたい。
報告者
西村舞由子
報告日
2025/3/30